従属項の存在意義

この業界に入る前から疑問に思っていて、未だににあまりすっきりしないのが従属項の存在意義でしたので、頭の整理をしました。

 

実務的には、1回の審査で、メインクレームAだけではなく、メインクレームに色々な要件を付加した発明(A+B、A+C・・・)を審査してもらえるという点で、従属項を設ける利点があると言えます。従属項をまともに審査して貰えないことも多々ありますが、メインクレームは拒絶理由有りだが、従属項には拒絶理由無しと拒絶理由通知書に書いてあると、少なくとも落としどころがあるので安心します。

審査段階で有益であったとして、そのまま多くの従属項を伴ったまま登録させる意味はあるのでしょうか。

インターネットで簡単に調べると、他社牽制目的が理由と書かれていることが多いですね。

例えば、請求項1(Aを含む組成物)、請求項2(さらに、Bを含む、請求項1に記載の組成物)という特許があった場合に、「Aを無効にするための証拠を持っていて、A+Bを無効にするための証拠は持っていないけれど、A+Bを実施したい」という人は、残念ながら実施をあきらめることになります。

上記の例で仮に請求項2が存在しなければ、一応、請求項1を無効にさえすれば、A+Bの実施は非侵害です。

しかし、実際のところは、請求項1を無効の判断がされたとしても、訂正によって、明細書の記載を根拠にして、請求項1をA+Bに訂正することは可能です。そうすると、別の従属項としても規定しなくてもよいのでは、と思います。

別の側面として、クレーム数を多くしておくことで、メインクレームを無効にされても、枝分かれした発明を別個に残すことが可能という効果もあります。

<パターン①>

請求項1:Aを含む組成物

請求項2:さらに、Bを含む請求項1に記載の組成物

請求項3:さらに、Cを含む請求項1又は2に記載の組成物

請求項4:さらに、Dを含む請求項1又は2に記載の組成物

上記の例で、請求項1を無効にされたとすると、次の5つの発明が残りました(もちろん、請求項1をA+Eに訂正して残るケースもあり得ます。)。

上位概念:「A+B」、「A+C」、「A+D」、

下位概念:「A+B+C」、「A+B+D」

 

<パターン②>

請求項1:Aを含む組成物

請求項2:さらに、Bを含む請求項1に記載の組成物

請求項3:さらに、Cを含む請求項1又は2に記載の組成物

上記の例で、請求項1を無効にされたとすると、次の3つの発明が残ります。

上位概念:「A+B」、「A+C」

下位概念:「A+B+C」

このパターン②の時点で、パターン①で残った「A+D」の発明は取り戻せません。なぜなら、B又はCが必須要件になっているためです。

 

<パターン③>

請求項1:Aを含む組成物

請求項2:さらに、Bを含む請求項1に記載の組成物

上記の例で、請求項1を無効にされたとしても、次の3つの発明が残ります。

上位概念:「A+B」

このパターン③の時点で、パターン①②で残った「A+C」、「A+D」の発明は取り戻せません。なぜなら、Bが必須要件になっているためです。

という感じで、従属項を減らすにつれて、請求項1を無効にされた場合に残る発明の数が減っていきます。

適当な例えですが、大将(請求項1)が死んでも、家来(従属項)が一人だと、戦える戦場は限られますが、家来(従属項)が10人いたら、色々な戦場でおのおのが戦ってくれるという感じでしょうか。

 

 

 

 

除くクレームの再確認

最近、除くクレームを使ったので、頭を整理しました。

 

<パターン①>

本願:Aを含有する組成物。

引例:A及びBを含有する組成物。

補正方法:Aを含有する組成物(但し、A及びBを含有する組成物を除く)。

説明:この場合は、Bを意図的に添加すれば容易に侵害を回避できます。

<パターン②>

本願:置換基Aを含むXを含有する組成物。

引例:置換基A及びBを含むXを含有する組成物。

補正方法I:置換基Aを含むXを含有する組成物(但し、置換基A及びBを含むXを含有する組成物を除く)。

補正方法II:置換基Aを含むX(但し、置換基A及びBを含むXを除く)を含有する組成物。

説明:補正方法Iは、パターン①と同様、Bの添加による侵害の回避は容易です。一方、補正方法IIは「置換基A及びBを含むX」ではない「置換基Aを含むX」を含有しさえすれば、「置換基A及びBを含むX」を含有してよいことになりますので、権利範囲は広くなります。29条の2対応等でとりあえず新規性を出す必要がある場合は補正方法IIを選択が適切なと思われます。一方、進歩性などで、引例から極端に遠ざけたい場合に、補正方法Iを取る場合もあるかもしれません。

さて、折角なので審査基準も確認しました。

補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、補正により当初明細書等に記載した事項を除外する「除くクレーム」は、除外した後の「除くクレーム」が新たな技術的事項を導入するものではない場合には許される。

以下の(i)及び(ii)の「除くクレーム」とする補正は、新たな技術的事項を導入するものではないので、補正は許される。(i) 請求項に係る発明が引用発明と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)が否定されるおそれがある場合に、その重なりのみを除く補正 

(ii) 請求項に係る発明が、「ヒト」を包含しているために、第29条第1項柱書の要件を満たさない、又は第32条に規定する不特許事由に該当する場合において、「ヒト」のみを除く補正 

(ii)は関係ないので置いておいて、(i)のケース、すなわち第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条の対応としての除く補正は、新たな技術的事項を導入するものではないことが明記されています。

さらに、(i)は次のように説明されます。

(説明)
 上記(i)における「除くクレーム」は、第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条に係る引用発明である、刊行物等又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む。)のみを除外することを明示した請求項である。上記(i)の「除くクレーム」とする補正は、引用発明の内容となっている特定の事項を除外することによって、補正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえない。したがって、このような補正は、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかである。なお、「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができる発明は、引用発明と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有するが、たまたま引用発明と重なるような発明である。引用発明と技術的思想としては顕著に異なる発明ではない場合は、「除くクレーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶理由が解消されることはほとんどないと考えられる。また、「除く」部分が請求項に係る発明の大きな部分を占めたり、多数にわたる場合には、一の請求項から一の発明が明確に把握できないことがあるので、審査官は留意する(「第II部第2章第3節 明確性要件」の2.1(1)参照)。 

前半の「このような補正は、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかである。」であるは、第29条第1項第3号等の場合という前提ですが、目的が新規性であっても進歩性であっても、やっていることは同じなので、普通に考えれば、目的が進歩性であっても新規事項の追加には該当しないと解釈できます。ただし、除く対象自体が不明確なものであれば、新たに明確性違反の拒絶理由を受けるリスクはあると思います。

続いて「引用発明と技術的思想としては顕著に異なる発明ではない場合は、「除くクレーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶理由が解消されることはほとんどないと考えられる。」とあります。しかし、実務的にはなんだかんだで、除く補正を使って進歩性の拒絶理由が解消することは良くあります。

例えば、以下のような例が挙げられます。

本願:A及びBを含有する組成物(Bによって異質な効果を奏している)。

引例:請求項1が「A及びCを含有する組成物」、明細書中にBを含有してもよい、記載有り。

上記の場合、除く補正を行うまでもなく、Bの異質な効果によって許可になる可能性もあるのですが、審査官によっては認めないであろうとも思われます。

このようなときに、出願人側から、それではA+B+Cは除きますよという感じで「A及びBを含有する組成物(但し、Cを含有するものを除く)」と補正すれば、引例においてCは必須要件であるため、Cを除くことに阻害要因があるとも主張可能です。ここまですれば、許可してもらえるように思います。

一方、上記<パターン②>の補正方法IIの除くクレームでは、除いた置換基A及びBを含むXを含むことは許容されますので、阻害要因の主張は難しいです。

新たな引例による拒絶査定の可否

引用文献Aに基づく進歩性欠如の拒絶理由通知を受けた場合に、補正書を提出した場合に、新たな引用文献に基づいて進歩性欠如に基づく拒絶査定を受ける場合があるでしょうか?

薄い記憶ながら、そのようなケースが1回あったような気がしますが、改めて調べなおしてみました。

どうも2015年くらいまでの審査基準には「(3) 通知した拒絶理由にとらわれて、新たな先行技術文献を追加的に引用するなど、無理な拒絶の査定をしてはならない。拒絶査定においては、周知技術又は慣用技術を除き、新たな先行技術文献を引用してはならない。(第IX部 審査の進め方)と明記されていたようです。

ところが、2015年頃の審査基準の改定時にこっそりと「 拒絶査定をすることが出願人にとって「不意打ち」とならないかについて慎重に検討する。通知した拒絶理由にとらわれて、無理な拒絶査定をしてはならない。」に改定し、「新たな先行技術文献を引用してはならない。」という文言を削除したようです(第I部 第2章 第5節)。

つまり、結論としては、拒絶査定時に新たな引用文献を追加してもOKということになります。

特許庁が上記の修正を行った理由はよく分かりませんが、上記のケースでいうと、引用文献Aに基づく進歩性欠如が解消されておらず、かつ、新たに発見した引用文献Bに基づく進歩性欠如も見つけたので、これも通知しながら拒絶査定したい、という場合等を想定したのかもしれません。この場合は、明らかに「不意打ち」ではないですね。

一方、私が経験したケースは、普通に、最初の拒絶理由通知で引用された引用文献Aには触れずに、新たな引用文献Bだけに言及して拒絶査定を受けたように記憶していますので「不意打ち」だったように思います。

今後このようなケースには、審判請求時に「不意打ち」としつこいくらいに記載するのが良さそうです。

EPの自己衝突

それなりの頻度で出会ってしまうEPの自己衝突。基礎出願を同じにする2つのPCT出願で自己衝突が生じえるかどうかという問題に出会ったので検討結果をメモします。

前提として、PCT出願②は(イ)を追加しているので、優先権は効かなそうだが、一応、念のために優先権を使ったという状況。

 

パターンA:

PCT出願②は新規事項(イ)を追加しているため、出願日はPCT出願②の時点と判断される。しかし、PCT出願①は、イを開示していないので、PCT出願①との間で自己衝突は起こりえない。

この場合、そもそもPCT出願②で優先権を使用するメリットがあったか?仮に(イ)が周知技術である場合に、ア+イ≒アと判断されれば、優先権使用していないと自己衝突が起こる(EPでその判断は無さそうだが)ため、かけておいた方が安全。デメリットは、PCT出願②を基礎とする優先権出願ができなくなる点(存続期間も伸ばせない)。

 

パターンB:

PCT出願①は新規事項(イ)を追加しているため、出願日はPCT出願①の時点と判断される。同様に、PCT出願②は新規事項(イ)を追加しているため、出願日はPCT出願②の時点と判断される。そうすると、PCT出願②のア+イは、先願であるPCT出願①の実施例に記載されているため自己衝突有り・・・なのか。

 

いずれにしても、PCT出願①と②は同日出願すべき。